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次の日もその次の日も、颯からの連絡は一切なかった。 それから数週間。 私は実家から一歩も外に出ず、ただひたすら編み物をしていた。 小さな靴下。 小さな手袋。 クリーム色をした、手編みのセーター。 私の頭の中で笑う赤ちゃんのために編み続ける。 同時に、ひと編みごと颯のことを思った。 一緒に笑いあった日のことや、喧嘩をした日のこと。 子供を授かるという望みと、大切な颯をいっぺんに失い、 幸せを見失った私は、これからどうやって生きていけばいいのだろう。 それは、突然だった。 18時を少し回った時のこと。 玄関のチャイムが鳴り、父が帰宅したのだと勘違いした私は、訪問者の確認をせずにドアを開けてしまった。 「颯……」 立っていたのは思いがけない相手で、私は言葉を探してしまう。 「なかなか来れなくてごめん」 「離婚届持ってきてくれたの?」 手元に握られている鞄に視線を移した。 「ひとりで抱え込ませて、ホントにごめん」 「颯は悪くないから」 悪いのは全部私。 「これ」 颯は鞄の中から封筒に入れられた資料らしきものを私に差し出し、中を見るようにと言った。 .
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