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何気なしに彼女の顔を見ると、いつの間にか大きく出来ていた痛々しい痣が無くなっている。
「あんた……!」
勢いよく立ち上がり、確かに殴った顎の辺りを凝視する。手加減をしたつもりはない。むしろ、強めに殴った。
だからこそ、彼女も一撃で気絶した。
事実、俺は彼女の怪我の具合を見ている。
「どうかしましたか?」
突然立ち上がった俺を驚き半分、不思議さ半分と言ったような目で見つめている。
「すみません、大声を出して。ですが、顎の傷はどうされたのですか?」
彼女は少し、キョトンとした表情をした後、ゆっくりと顔に笑みを浮かべた。
「私こう見えても、医療系の魔法を使わせたら、世界でも有数の実力者なんですよ」
魔法とはなんだ。魔術ではないのか。
いや、それよりも俺は医療系の魔術など知らない。
これでも、ファルストロング王国の騎士団長をしていたのだ。もし、そういった物があるのならば、俺の耳に入っていない方がおかしい。
嘘だと思いたい。
しかし、現実は事実を否が応でも見せてくる。
「あ、驚きました?ですが、私もそれなりの実力を持っていると自負していますけど、他国にも私と同等かそれ以上の実力をもっていらっしゃる方もいると思いますよ」
いつまでも、傷があった場所を見ている俺を茶化すような響きを持った口調。だけど、俺にはその殆どが頭に入らない。
文化どころか、ここは魔術がかなり進んでいる。
本当に小国家なのか。
いや、小国家だからこそ、独特の文化、魔術が発達したのだろうか。
「それは、すごいな」
思っていたことがそのまま声になってしまった。不用意に言葉を発すると不味いことまで話してしまう。
頭の中で吟味して話しているつもりが、驚きのあまり、思わず声が出てしまった。
しかし、今の一言はそれほど問題ない一言だ。
それだけが幸いだ。
「いえいえ、それほどでも」
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