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「それにしても」
彼女は笑みを崩さぬまま辛辣に言い続けた。
「女性をいきなり殴るのはどうかと思いますよ?」
彼女の言葉は俺の心を串刺しに。
「それについては言葉もありません」
頭を素直に下げる。
彼女は顔に笑みを浮かべたまま何もせず、俺をただ見つめる。
「頭を上げてください」
言われ、頭を上げるが、彼女は未だ俺を見つめたまま。いい加減、恥ずかしくなってきたところで、彼女は静かに下を向いた。
「許しましょう。貴方も本心から謝意を込めているようですし、あの状況では警戒せぬ方がおかしな事です。今回はお咎めもなし、ということで」
何を持って本心だとしたのかよく分からないが、許してくれると言うなら無駄な詮索はしまい。
「それよりも貴方のお名前をまだ、伺っていませんね」
「これは失礼致しました。私はトーマ・フォン・シュバーベンと申します。国はファルロング王国です」
彼女は眉間にシワを寄せ、怪訝な表情をする。
何か不味いことを言ったかと少し思案するが、答えはすぐに見つかった。
ここは、恐らく敵国。見たことも、聞いたこともない服に自分の知らない場所。
彼女を殴ってしまった罪悪感から言ってはならない情報まで言ってしまったか。
「あ……」
捕まっても、国名は言うな。養成学校でも教えられる初歩中の初歩だ。
上手い言い訳が見当たらない。今更、冗談だとも言えない。八方塞がりか。
「ふぁるすとろんぐ……王国……ですか?失礼ですが、その国はどの辺りにあるのでしょうか?」
「え?」
予想していない彼女の言葉。まさか、嘘を言っているのか。彼女は諜報員で俺から少しでも多くの情報を引き出そうとしているのか。
いや、ファルストロング王国は大国だ。歴史もある。それ知らないというのは些か無理がありすぎる。
「貴女は本当に我が祖国を知らないので?」
「えぇ、無知で言い訳のしようもありません。もし宜しければ、貴方の御国について教えていただきたいのですが」
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