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彼の家に続く暗い道をひたすら逆行して歩いていた。身体が重い。息が白くなるほどではない寒さの中、ひやりとした風が吹く。ぐらぐらと煮える私の頭を冷やすには物足りないが、心地よい夜風だ。
暗く人気のない道にポツンとある街灯がなんだかまぶしくて、手をかざした。ぐーの形で強張った手が光を受けて赤く染まる。掌に納まらない部分が鈍く光るものだから、一瞬頭の中が真っ白になってしまった。
ふと気が付くと、私は赤い色に魅入っている。夕日の赤と街灯に照らされて浮かぶ、手とナイフの刃にこびり付いた赤はどう違うのかわからず、首をかしげてしまう。
赤いランプの踊る救急車が首をかしげる私の横を素通りしていく。あの車は、きっと赤に染まった私には気が付かなかっただろう。
身体がぐしょりと濡れていて重たかった。彼はきっとまだ息がある。私も今のところはまだ生きている。すうすうと吹く夜風が物足りなくも心地いい。
夜風? 違う。私は夕日に染まってこんなに赤くなっているのだから、今は夕方だ。そう、彼と共に夕日に染まっているんだ……。
自分と彼の血で真っ赤に染まった私は、闇に沈む。
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