優しい嘘

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 カーテンがふわりと揺れる。  朝の新鮮な空気が部屋中に満ちていた。  お母さんはニコニコしながら僕の好きな食べ物をテーブルいっぱいに並べる。  僕はうれしくなって、でも同時に悲しくもなってしまう。閉められたカーテンの向こう側からランドセルのはずむ音と同年代の子たちのはしゃいだ声が聞こえてくる。  僕は、本当は、こんな所にいてはいけないのだ。  お母さんは優しく微笑んで僕を見つめる。けれども、お母さんは心の中ではわんわん泣いている。泣いて泣いて、心がネジキレテしまって、そうして今、こんなに優しく笑っているのだ。  僕がいつまでもこんな所にいるせいでお母さんの心はネジキレタまんま。反対にお母さんが僕を求めているから、僕はいつまでも成仏できずにここにとどまっている。  食べられもしない料理の並んだテーブルを見回してから、僕はいつものように嘘をつく。 「おいしいよ」  料理を食べるふりをして、僕はにっこりと笑った。
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