Ⅰ.嵐の転校生と最高の因縁。

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玄関の呼び鈴が鳴る。 こんな時間に誰だ? ああ、父さんたちからの宅配便でも届いたのだろうか。たいてい、連絡なしにいきなり送ってくるしな。 「はいよー……」 のっそりと起き上がり、薄暗い廊下を歩いて玄関へ向かう。 玄関にある、ちいさな西向きの窓。そこから入り込んだ夕暮れの光が、あたたかく眩しかったのを覚えている。 ドアを開けると、 「Trick or treat!」 なにやら真っ黒な格好をした、小学生と見える少女が、ちいさな手のひらを差し出していた。 「トリックオアトリート」……。 あ、それだ。 お菓子をもらう合言葉。 じゃあ、お菓子をあげるべきなのか? はじめての出来事に緊張する。 夕陽に照らされた少女は、期待に満ちた眼差しでこちらを見上げている。ちゃんと見ると、びっくりするほど可愛い。 目を瞠っていると、輝くオレンジ色の双眸にじっと見つめられ、その澄んだ瞳に思わず目をそらした。 黒のワンピースに黒いとんがり帽子。少女の衣装はどうやら魔女のものらしい。 魔女の仮装か。 肌や瞳の色なんかがどこか日本人離れしているし、ハーフとかかな。お国の習慣ってやつを守ってるんだろうか。無知ながらにそう解釈する。 (面倒だが……渡さなきゃだよな、お菓子) ぼんやりと考える俺に、少女は期待に満ち満ちた目を向けている。風が吹き、彼女の長い黒髪が揺れた。そのつややかな髪を見た瞬間、心臓がどくどくと音を立てはじめた。故のようにきれいな黒髪。その毛先が今にもこちらに伸びて、自分を絡めとりそうな気がしてぞっとした。夏の日の凍りつきそうな空気を思い出して鳥肌が立つ。 あとになって思えば、このときの俺は少し、いや相当、病んでいたのだろう。
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