Ⅰ.嵐の転校生と最高の因縁。

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「お菓子をあげるから、目を瞑って」 嘘を吐くと、少女はぱあっと顔を輝かせ、目を閉じた。 素直だなあ。 その無垢さが、純粋さが怖くて。傷つけたいと思ってしまって。 暗く、空虚な衝動に突き動かされるまま。 静かに顔を寄せると、さくらんぼ色の唇にそっと自分の唇を重ねた。 やわらかいな、と思った。けれどなんの感慨もなかった。 心は満たされなかった。 「……!?」 少女がぱっと目を開け、ぐいっと俺を押し退ける。 自分だって『はじめて』のくせに、俺は妙に落ち着いていた。 今度こそ、しっかりと――少女と目があう。かちりと。音をたてるように。 ぞくりとするほど美しく妖しい、夕焼け色の瞳。 視線が逸らせない。相手も逸らさない。 きっとこのとき、噛み合ってはならない歯車が、噛み合ってしまったのだ。 風の音が数秒の静寂を破り、同時に、少女の緋色の瞳が潤み、ゆっくりと悲しみが広がる。 傷ついたようなその顔に、一瞬だけ罪悪感がよぎる。 それは、本当に一瞬だった。 何故なら少女は一瞬の間に、姿を消したのだから。 夕闇に溶けるように消えた、魔女の少女。 非日常の終了。 「……はあ」 白昼夢でも見たのだろうと自己完結し、ドアを閉める。 再びやってきた退屈に、俺はため息をついた。 「にゃあーお」 どこからか、猫の鳴き声が聞こえた。
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