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「あ、あの時の魔女の格好してた奴か!」
回想を終え、なんで今まで忘れていたのだろうと引っかかりつつも納得した俺を、阿久間はぎろりと音がしそうなほど、思いっきり睨んできた。視線だけで人を殺せそうだ。
「……そうよ。あんたのせいで、私がどんな目に遭ったか……!」
阿久間いわく、彼女のもといた世界――魔界では、住民たちは八歳になると魔法学校に入るため、ある試験を受けるのだそうだ。
その内容は、10月31日、ハロウィーンに人間界に降り立ち、人間にお菓子を貰ってくること。
そのときの合言葉が、
『Trick or treat』。
彼女は二年連続で失敗し、十歳のとき俺のところへ来たらしい。
ってことは、阿久間は今、十三歳ってことか? それにしても……ちいさいな。
なんてことを思いながら、
「……それは、ご苦労なことだったな」
「……あんたはあの時、『お菓子をあげる』って言った。なのに、……なによ、キ……なんて!
このロリコンキス魔ッ!!」
棒読みの相づちを打ち、やたらファンタジーな話を信じてなどいないことを伝えようとしたが、相手はむしろヒートアップしていく。
……って、おい。
「俺、ロリコンじゃないからな」
「はあ? そんなことどうでもいいわよ。とりあえず、責任とって私に殺されなさい」
俺にとっては重大なことを『そんなこと』呼ばわりし、自称魔女の転校生は再度、俺を睨みつけてきた。相手のほうが背は低いのに、なかなかの威圧感だ。
魔界だのなんだの言ってるから頭のイカレた奴かとも思ったが、俺をまっすぐに見る眼光鋭くも綺麗な色の瞳には、常識を超えたなにかが滲んでいて。
そんな非現実的なこともありえるんじゃないかなんて、ちょっと思ってしまう自分がいた。
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