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魔女を信じる人間が、この世にはどれほどいるだろうか?
そう、魔女。
広辞苑にも載っている、悪魔やら魔術やらとともに語られる非現実的な存在。
歴史を紐解けば、魔女狩りなんて今では考えられないような行為まで行われている。
それでも、異端視され、迫害され、投獄、拷問、裁判、ときには処刑されていったその人たちが、本当にオカルティックな存在であったのか、真相は誰にもわからないし語れない。
まあそれは置いておくとして、俺はもちろん、そんな非科学的な存在、信じてなんかいなかった。
それが――。
「やっと、会えた……」
こちらにまっすぐ向けられた、夕焼け色の瞳。
微笑むかたちにゆがむ、さくらんぼ色の唇。
舞台はいつもとなんら変わりないはずの朝の教室。なのに彼女が現れた瞬間、空気が輝きだしたようだった。
制服に身を包んだ、幻想的なまでに美しい少女の魅惑的な瞳に、息をのんだ。
その花びらのような唇を開き、マンガか恋愛ドラマかと揶揄したくなるような科白(せりふ)を、彼女は紡いだのだ。
他ならぬ、俺に向かって。
そして、彼女は迷うことなく俺の前まで来て、俺だけを見つめて――
こうおっしゃいました。
「私に殺されなさい」
それはそれは、悪夢のような科白。
けれどその日その瞬間。きっと――
俺は魔女に、魔法をかけられたんだ。
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