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まず目についたのは、動きに合わせて揺れる、黒いさらさらのロングヘアー。
そのてっぺんの位置は、なんか……ずいぶん低くないか?
うちのクラスには、たしか145センチの女子がいるが、そいつよりもさらにチビに見える。身長は推定140センチに届くか届かないかといったところか。
(おいおい、小学生かよ――お?)
驚いた。ちらりと見えた白い横顔は、きれいなラインを描いていて。ちょっとだけ期待のようなものがよぎる。
ちいさな転校生はとことこと歩き、教壇の上に立った。姿勢、いいな。
(――おお)
「うおっ、かっわいー」
「高校生活に新しい風が……!」
「ちっちゃいけどよくね?」
「おまっ、ロリコンかよー」
野郎どもの談議がさっそくそこかしこで始まる。
うん、確かに可愛い。
腰あたりまでのびた黒髪に映える、日本人離れした白い肌。パッチリふたえの目に長い睫毛。文句のつけどころがない、それはさながら人形のような美貌。
ひんやりとした表情は臆したところがなく、かといって人懐っこそうでもない。小柄ながら気高い猫を思わせた。
童顔で、高校の制服を着ていなければ小学生と見間違えそうだ。
「阿久間緋色(あくま ひいろ)です。よろしくお願いします」
声だけは大人びていて、なかなか好みの声だ……声は、な。
(にしても、変わった名前だな)
「えーっと、阿久間は……うん、とりあえず転校生です! はいよろしくー」
紹介もテキトーないけちゃんが顔に似合わず可愛らしい、丸っこい字で黒板に書いた、転校生の名前を見やる。
緋色って、たしか赤に近い橙色……だったか? 色の名前をそのまま付けるとは、変わった親だな。俺もよく、珍しいとは言われるけども。
名前は置いておくとして、なるほど美少女に分類される転校生さんである。
(ま、どうでもいいか……)
大人しそうなやつは好みじゃないし、俺はロリコンではない。
美少女転校生とお近づきになろうなんて野望はないし、そんな運も持ち合わせてはいない。
俺は誰とも、“近く”はならない。
「じゃあ、席はー……村崎の隣なー。はい、村崎きりーつ!」
「……んあ? はいよー……」
まじか。そういや隣空いてたなー……。
渋々立ち上がった。その時、
「やっと、会えた……」
……はい?
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