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えーと、今の声は紛れもなく転校生さんの声ですよね?
なのに教室を見回すと、全員が窓際最後尾の俺の席を振り返っている。いやいや、なんで俺のほう向いてんの?
阿久間さんを見ると、名前と同じ緋色をした瞳――綺麗な色だ。肌の色といい、どこか外国の血でも混じっているのだろうか――大きなそれが、こちらにまっすぐ向けられている。
クラスの奴らはその視線を辿ったのだろう。
つまり。
今さっきの、非現実的な恋愛モノでよくありそうな、「ずっと、捜していたの」なんて続きそうなセリフは、彼女が俺に向かって言ったのか?
目を白黒させる俺の目の前まで歩いてきた阿久間さんは、オレンジ色の双眸で俺を見上げ――ふっと微笑んだ。
「っへ」
意外と大人っぽい笑いかたに、心臓が跳ねたのは不可抗力だ。変な声が出たのも仕方ない。
一瞬、なにかが頭をよぎって――いやいや、そんな場合じゃない。
ちょっと待て。なんなんだ。なんなんだ、これは。
まるで二次元の世界――って言ったら失礼かな。
……まさかとは思うが、何故だか女子に避けられやすい、彼女いない歴十六年の俺にもついに、春ってやつが来たのか? 秋だけど。
どうリアクションをとるべきなんだ、その場合。
なんて過剰な期待なんかしてしまう。ロリコンじゃないけどな。
すっかり考えに沈んでいると、ガタタ、ガタッと音がした。
おや? 阿久間さんがなにやら自分の席の椅子を動かし、俺の横にそれを置いてその上に立った。上履きもきちんと脱いでいる。
「ん?」
椅子に乗り、ちょうど俺より少し高いくらいの背になった阿久間さん。
彼女のほうを向くと、その細い腕がすっと伸びてきて――
「ぐぇっ!?」
おもいっきり胸ぐらを掴まれ、息がつまった。
無言の阿久間さんの表情はさっきまでとは打って変わって冷たく、刃物のように殺気すら放っていて。俺は困惑するしかない。
周りがなんか騒いでいるが、騒ぐくらいなら助けろ。けっこう力強いんだよこの見た目小学生……!
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