Ⅰ.嵐の転校生と最高の因縁。

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(……どういうことだ、この状況は) とびきり長く感じた二学期初日が終了し、帰り道。 朝の爆弾発言以降、無言で俺を睨み続けていた転校生は、今も何故か隣を歩いている。 帰る方向が同じなのだろうが、教室から遁走した俺についてきたってことは、なにか話があるんだろう。 ところが阿久間は俺に目もくれない。赤の他人だとでも言いたげなつんとした表情で、けれど歩幅の広い俺に早足でついてくる。気づけば、彼女に合わせてゆっくり歩いていた。 そこで、周りに人影のなくなった土手の上で、意を決して話しかけてみる。 「なあ、どういうことだ?」 「なにが」 そっけなく吐き出される俺好みの声。 朝以来のその声に、今は苛立ちしか感じない。 「一体なんなんだよ、 『私に殺されなさい』って。新手の告白じゃあるまいし」 思い出すだけでもため息がもれる、朝の大騒動。 一瞬の静寂のあと、いけちゃんはわざとらしく大笑いし、クラスの8割くらいがどん引きし(主に俺に)、男子の一部は「昌國、お前、そっちの趣味があったのか…」とか言ってるし、もうさんざんだった。 その後阿久間は女子たちに囲まれ質問攻めに。阿久間は終止無言を貫いていたが。 俺はというと、友人から「安心しろ、トモダチやめたりはしないから!」なんていい笑顔を向けられ、男子どもからやはり集中攻撃。 日々刺激を求めている高校生が、恰好の獲物を逃がすはずがない。 そんなこんなで、やっとこいつとふたりきりになれたのだった。 ……というか、すたこらと帰ろうとしていたらこのちみっちゃい女子高生がついてきたのだが。 「……あんた」 「はい?」 ぴたりと足を止めた彼女の、妙に低い呟きに耳を近づけると、 「あんた、忘れたって言うの!? この変質者!!」 「はあっ!?」 びしぃっ! と人差し指を突きつけてきた阿久間に、俺はなんのことやらわからず立ちつくす。 (へ、へん……っ!?) 「三年前の、10月31日っ! 忘れたとは言わせないわよ、村崎昌國!!」 10月31日……? (と、いうと) ハロウィーンだ。 ……。 …………。 それぞれに動きをとめた俺と阿久間の間を、晩夏の風が遠慮がちに吹き抜けていき、ついでにカラスのうるさい鳴き声が降ってきた。 困り果てた俺は、視線を上にやった。果てしなく広がる、やわらかなオレンジ色に染まりつつある空を見て――あ、と息をもらした。 ……思い出した。
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