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それは早朝の森の中だった。
流れる水の音。どこからともなく綺麗に透き通った水が湧き出て、大きな池に落ちていく。
雲間から注ぎ込む目映い朝日が森を照らし、木洩れ日となった光を仰ぎながら池の前に佇む1人の若い娘。
「始まりの音がしました……」
天を見つめながら胸の前で手を組み、呟いた。
白く長いワンピースがふわりと風になびく。
それにつられるように、透き通った白色の長髪が流れた。
「神様……どうかこの地をお護り下さい……人々に災いがあらんことを……」
裸足で立つ両足の片方を後ろに下げ跪くと、そう祈りを捧げる。
木々の緑がざわめき、途端に彼女の周りに花が咲き乱れるが、動じずに祈りを捧げ続けた。
まるでそれが当たり前かのように。
目を閉じて俯いたと思えば何かを悟ったようにゆっくりと瞼を開け、組んでいた手を天に伸ばし光を浴びる。
彼女は何も言わず立ち上がるとその場を去った。
歩くたびに、花を咲かせながら。
残ったのは水の音だけ。
清らかな音が響き渡る。
先程よりも光の強さが増した木洩れ日が、ただただ池を美しく照らしていた。
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