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「かなちの知らない人…」
視線を宙に泳がせながら彼は言った。
「どこで知り合ったの?」
「いつから?」
「何処に住んでる人?」
矢継ぎ早に質問を浴びせ掛けるアタシに
北海道在住の31歳、バツ歴もない独身
知り合ったのはネットでまだ極最近の事
顔は知らないが電話では毎日話している
といったことを彼は大まかに説明して聞かせた。
アタシは余りにも馬鹿馬鹿しい話に呆れた。
「なんで写真見せれないの?
顔も知らないのによく結婚決めれるね」
「結婚するのに容姿は関係ないんだ。
いい人で普通に生活が送れたら…」
「確かにそうかもしれないけど
ちょっと急なんじゃないの?
それより焦る年齢でもないし
もう守りに入っちゃうことないよ」
「だけど・・・
俺も秋に取締役になったし…
世間的にカッコ悪いんだ」
「それだけの為なら誰でもいいってこと?」
「誰でもってことはないけど…
彼女が来るっていうから…」
余りにも結婚を簡単に考えている彼に
アタシは疑問だらけだった。
そして意地悪を言うように
「まぁ…それはあなたが決めることだからアタシは何も言えないけど…
バツ3になると思うわ!」
と言った。
彼は俯いたまま暫く黙り込んでいた。
アタシはまた畳み掛けるように言った。
「あのさ・・・冷静に考えてみて
彼女は31歳独身、子供も欲しいと思うよ?
それに結婚も焦ってると思う。
もしかしたら子供産んだらさっさと北海道へ帰るかもしれない…
あなたがマンション持ってて取締役とか…知ってるの?」
最初は嫉妬心がなかったと言えば嘘になる。
どこかで彼はアタシから離れないと思っていた安心感が
地面を大きく揺らし
脆くも足元から崩れ落ち
意識が遠退くような錯覚さえ覚えた。
しかし今となっては
彼の支離滅裂な言動に
腹立たしささえ感じる。
こうしてアタシを嘲笑うように離れていくんだ…
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