910人が本棚に入れています
本棚に追加
人と人の口約束ほど曖昧なものはない・・・
アタシはつくづく思った。
いつも、どんな時も
愛し合う恋人同士は
夢物語を語り合う…
その時の気持ちは決して嘘ではなく
自分の素直な感情に裏付けられた
大いなる願望・・・
その時の二人は
永遠を信じ
永遠が本当にあると錯覚をする。
恋は人間に幻想を抱かせ
時として間違った道へ導き
奈落の底へと簡単に落としてしまう魔力すら持っている。
信じたものは裏切られ
時として心に深い傷を追い
地獄の暗闇を徨い続けることもある。
人間にその幻想と錯覚がなかったら
人は恋に落ちたり
愛を信じたり
結婚などという愚かな夢を持つことなどないのだから…
神というのは
人間の体、という外側の鎧だけでなく
心という内側の感情の
些細な機微までをも
想定して創造したのなら
それは生まれてきた瞬間から
夢と絶望が交互に
そして皆に平等に
それらを与え給うものなのだろうか…
交わされた愛が
交わされた約束が
例え永遠ではなくとも
人はそれにしがみつき
希望という光りを求め
限りなく幻想を抱き続けることが
幸せに繋がるのだろうか…
アタシには
その時のアタシには
そんな幻想など虚しいだけ
約束ほど不確かで
言葉などなんの意味も持たない
例え夫婦の契りを交わしたとしても
それすら何の確証もない…
そんな絶望しか抱いていなかった。
これからアタシは
裏切りも、嫉妬もない
安らかな安住の地に
果たして辿り着けるのだろうか…?
彼が結婚をすることは
裏切りでも何でもない
アタシ達はすでに
別々の道を歩いているのだから…
だけど・・・
一人立ち止まったまま
光りの先も見えないままのアタシに取っては
ずっと道先案内人のように
アタシの足元を微かに照らし続けてくれた彼が
遠い遠い存在となり
いつかアタシの記憶すら
セピア色に焼けた写真のように
色褪せ、やがて消えていくような
まるでそれは
アタシ自身が消えて失くなってしまうような
恐怖にも似た陰を
アタシの心に残した。
アタシは秀人の結婚によって
本当に一人ぼっちになってしまうような
えもいわれぬ孤独感に
暫く奮えていた。
最初のコメントを投稿しよう!