優しさのチカラ

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生物兵器が生き物であり、隠れているのが湖の底であれば、ヒロスィムの海辺で育ったボビィには陸地より容易く発見、捕獲する自身があった。 湖に住む魔物用に用意した特別のモリを手に、大きく息を吸い込んでは何度も湖の底へと潜っていった。 ボビィは湖の底の地形をみればおおよそ魔物の餌場や生息する場所がわかった。怪しい場所を調べるうちに、何度もドラゴンや他の水棲の魔物に出くわしたが、魚達を凌ぐ俊敏な泳ぎと魔法のモリで追い払っていった。 湖の北側を捜索し始めたときボビィは湖底におおきな横穴を発見した。 ………ここが怪しいな。 ボビィは横穴に入ろうと体の向きを変えた途端、突然発生した大渦に捕らわれた。 それは、湖底に潜み、3本の首で起こした水流で渦を作り出し、餌を動けない状態にして食べるという大竜ティアマットの捕食方法であった。 ……くそ!逃れられないか? 息が限界に近づいたとき、海底の横穴から大きな怪物が現れ、横穴へボビィを引き込んだ。 ティアマットは突然消えたご馳走を探して横穴の周りをうろついていた。 横穴は傾斜しており、奥には空気が溜まっていた。ボビィはむせながらも呼吸を整えた。 ボビィを掴み横穴に引き入れた怪物は少し離れて静かにボビィを眺めていた。 3m程の翼竜のような姿をした怪物の首には首輪と鎖がついており、首輪には文字がかかれていた。 「…生物兵器1」ボビィがその文字を読むと、怪物は静かに頷いた。 「そんな!!…君は言葉がわかるのか!?」 怪物は再び頷き、翼爪で頭を指差した。 ボビィは悲しみと怒りが心に溢れた。人語を理解する知性をもちながら怪物の姿で作られた生き物、自分が兵器であることも理解しているであろうその生物の目は慈愛で満ち、人間を恨む様子はみられない。 そんなボビィの気持ちがわかるのか、彼は大きく頷き、ゆっくりとまばたきした。 「助けてくれてありがとうね。」 彼は軽く横に頭を振った。ふと彼は傍らの木の枝をくわえ、しばらく水面を眺めたあと、水面に枝を突き立て、今度はそれをボビィに渡した。枝には二匹の魚が刺さっていた。 「ああ。食事までありがとう。上手いもんだな!一匹ずつ食べよう。」 彼は今度は頭を大きく首を横に振った。 「なに?違ったのかな」
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