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布をめくると、恵美の生気の抜けた白い寝顔が現れた。
治療を待っているとき、看護師の人に、
「もし回復しても、以前のようには生活できないと思います」
そう言われた。
体中を刃物で刺されて、多くの臓器が傷つけられたらしい。
それでも……僕は心のどこかでは、助かると思っていた。
介護が必要なら、いくらでもするつもりだった。
死ぬわけないなんて、甘い期待だったんだ。
僕は耐え切れなくなって、布をかけ直すと、部屋を出た。
部屋を出ると、廊下を一組の夫婦が歩いてきた。
恵美の父母だ。何度か会ったことがある。
「駿くん…………」
僕は深く頭を下げた。
「僕は彼女を守れませんでした。謝って済むこととは思っていませんが、すみませんでした」
「頭を上げるんだ。君は悪くない」
「つらいのは私たちも同じだから、そんなこと言わないで」
「でも、僕があのとき…………失礼します」
二人の横を通り抜ける。
二人の顔が見れない。
「何かあったらいつでも連絡して」
その声に答えることはできなかった。
この人たちは、人が良すぎる。
僕があのとき、
もう少し早く着いていたら?
あの場所で待ち合わせなかったら?
恵美は、殺されずに済んだかもしれないのに……
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