【初日】記憶の糸

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「ご名答。だから貴方は此処に導かれたの」 彼女がクスッと笑みを浮かべた。 最初に会ってから時間は随分と立っているが改めて俺は彼女を見る。 年齢はやはり俺と変わらないぐらいか年下だろう。 髪は漆黒というより絵の具で例えるなら黒に少し白を混ぜて柔らかな色合いになった黒。 先程の上から目線とは思えない少し柔らかさを感じる焦げ茶勝ち気な目つき。 服装もここの場所と同じ様に和と洋がそれぞれ主張された服装。 ジャンルで例えれば和洋ゴシックだ。 「あ、そう言えば。私の名前まだ教えてなかったわね?謡(うた)、これが私の名前よ」 彼女改め謡はそう言って 俺の目を見てピッと指を2にして最初と同じ様に 「井上和也君、今から貴方に2つの提案を出します。まずは1つ目、このままこの場所に止まって来るべき死を迎えるのを待ち続ける。もう1つは他の人に形変わって数日間現世へと戻る。どちらかよ」 (死ぬか形変わる…?) 謡の提案に驚きを隠せないが はたりとある事に気づいて俺は顔を上げた。 「ちょっと待て」 「何?」 「お前の出した提案。つか結局どっちも死ぬんじゃねーかよ!!」 そう叫んだ俺に 謡は呆れた様にヤレヤレと肩をすくめると 「まずは人の話を最後まで聞きなさい」 そう言って 俺の額に指が当てられたのと同時に謡からのデコピンが発射される。 その痛みに俺が叫んでいると呆れた様に一息ついて 「他人に形変わると言っても、貴方が死ぬわけじゃない。数日の間だけ他人として現世に戻るの。まあ、簡単に言えば他人の身体を貴方が借りるって事。もちろんその間、身体の持ち主は貴方が身体から離れるまで眠り続けるけどね。今の貴方は魂だけの状態だから貴方の身体はちゃんと病院にあるし、死んでもいないわ」 まだ痛む額を押さえながら謡の説明を聞き終えると 「つまり、その数日の間に俺を殺そうとした犯人を見つければいいのか?」
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