【初日】記憶の糸

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俺の言葉に謡はニッと笑う。 「そうね。ただし期限は今を入れて5日。タイムリミットは午前0時ジャスト。その間に貴方をこれまで苦しめたイタズラの犯人や殺そうとした犯人を捜すなり親友と話すなり、家族と過ごすなり好きに過ごすといいわ。ただし、正体をバラしたり完全にバレたりしたら期限がどれだけ残っていようと強制的にここへ連れ戻すからそれだけは頭に入れておいて」 謡は胸元から何かを取り出して俺の掌に乗せた。 それは銀の輪に小さい黒い石がキラリと光っていた。 「指輪か…?」 「現世に着いたらすぐに装着しなさい。現世に居る間はお風呂と寝る時以外、肌身離さず付けておくこと」 「解った。」 俺は指輪を閉まうと 謡は背を向けると鳥居に向かって歩き出した。 慌てて後を追いかけると謡は鳥居の前で足を止めた。 謡はゆっくりと目を閉じると 何か呪文の様なものを唱え始めた。 「『生死の間よ、謡の言葉を契約に彼の者を現世へと導け』」 スッ 謡の指が動いた瞬間。 鳥居の先にまるで光の様な道が姿を見せてずっと先に見えるのは此処にある社よりさらに大きな社。 その奥から光が微かに溢れている。 「この社をくぐったら、決して振り返らずにあの光へ向かいなさい」 「振り向いたらどうなるんだ?」 俺の質問に謡は指に髪を絡めながら 「…知りたい?まぁ後悔してもいいなら教えてあげてもいいけど」 謡はそう言ってニヤリと微笑む。 それはもう悪魔のような笑顔で。 「…やめておきます」 「それが正しい選択よ。」 クスリ、と知らない人が見たらまるで天使のような満面の笑顔で 「ま、聞かれても教えないんだけどねー。言うとカレー廃人がうるさいし」 (この女、絶対に俺をからかって遊んでやがる。てか、カレー廃人って誰だよ) そんなノリツッコミを心の中で繰り返す俺に謡はクスクスと笑いながら 「命運を祈ってるわよ」 「アンタに祈られると余計不安しかないんだけど」 俺の反論に謡は目を見開くと 楽しそうに微笑み 「ふぅん、出会って間もないくせに言うようになったじゃない」 どこか楽しそうなそんな謡の嫌みを背に受けつつも俺は社をくぐった。 どこまでも続く光の道に 不思議な感覚が身体を支配する。 だけど今は余計な事を何も考えてはいけない。 それぐらい俺は無我夢中で光の道を走った。 暫く走り続けていると 大きな鳥居が見えて来てそこを潜り抜けて最初に見えた僅かな光の元へ辿り着いた瞬間。 俺の視界は 眩い光で何も見えなくなった。
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