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(何で梓がここに居るんだ?)
目の前に居るのは紛れなく実の妹。
(…って、何で俺、実の妹に謝ったりしたんだ?)
「…あ…」
妹の名を言いかけて気づく。
今の自分は井上和也本人ではなく他人なのだ。
(まずい…)
いきなり梓の名を呼んだら
不審がられてしまうのは目に見えている。
ましてはストーカーと勘違いされかねない。
そんな口ごもっている俺を見て
梓はきょとんとしている。
相変わらずな勝ち気な瞳。
何故か謡と被る気がしたがそれはきっと気のせいだ。
「あ!」
急に梓が何か納得したように手を叩いて。
「…もしかして新(あらた)さん?うわぁ!お久しぶりです新(あらた)さん!!」
(新(あらた)さん…?)
梓は今、俺の事を
新(あらた)さんと呼んだのか?
「兄貴の幼なじみで小学3年生まで近所に住んでいた森川新次(もりかわしんじ)さんですよね!?覚えてませんか?私、井上和也の妹の梓ですっ!!」
森川新次
もりかわしんじ
モリカワシンジ
その名をキーワードに
俺は頭の中の記憶のページをパラパラとめくっていく。
『カズ…和也!!いつか絶対に、東京に遊びに行くからな!!』
脳裏に蘇ったのは
そう叫びながらトラックから身を乗り出して新が自分に手を振る光景。
「…和也の…?」
思い出した。
森川新次(もりかわしんじ)。
彼は小学3年の時に父親の転勤で北海道に引っ越していった幼なじみの新(あらた)。
(俺に身体を貸してくれた持ち主の正体は…アラタ? )
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