14人が本棚に入れています
本棚に追加
「はいっ!そうですっ!お久しぶりです、アラタさん」
ニコリと俺に微笑む梓に俺は呆気に取られた。
しかし、今の俺は和也ではない。
アラタなんだとハッと気づいてアラタが言いそうな事を捻り出す。
「久し振りだね梓ちゃん。今、俺のとこ冬休みでね、前にカズにメールで東京に遊びに行くって約束してたからやっと日程も決まって先刻こっちに着いたんだ。数年振りこっちに来たからあまりにも懐かしくてついここまで足を運んじゃったよ」
我ながらにナイス言い訳。
北海道は夏休みが短い代わりに冬休みは長いってアラタが前にメールで言ってたのを覚えてて良かったぜ。
それにアラタが東京に来るって言ってたのは紛れもなく事実だしな。
「そうだったんですか、ここも大分変わったと思いませんか?」
「そうだね…所でさ、和也は?こっちに着いた時メールしてくれって言ってたから送ったんだけど返事返って来ないからどうも気になってね」
そう聞いた瞬間。
梓は俯いたまま黙りこんでしまう。
「…アラタさん」
ゆっくりとアラタの名を呟いてこちらへ歩いてくる。
俺の前に立つと急に抱き着いてきた。
「あ…梓ちゃん!?」
いきなり妹に抱きつかれて動揺を隠せない。
てか妹から抱きつかれた事なんて数えるぐらいしかない。
「アラタさんっ!!兄貴は兄貴は…!実は数日前に交通事故にあって意識不明の状態が続いてるんですっ!!」
「え……和也が!?」
抱き着く梓の肩が震えている。
そして服越しに伝わってくる温かい液体。
その正体は直ぐに解った。
泣いている。
俺の前では絶対に涙なんか見せないあの梓が。
俺を思って泣いているのだ。
「…新さん、実は兄貴、兄貴はもしかしたら前方不注意で事故にあったんじゃなくて誰かに故意に殺されかけたのかもしれないんです」
「え?」
梓の言葉に俺は驚きを隠せないでいた。
最初のコメントを投稿しよう!