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俺の言葉に暫しの沈黙が流れたが
梓は一息をつくと
「そうですね。順を追って話をしましょう。まず私も最初は兄貴の前方不注意で事故にあった。私もてっきりそうだと思ってました。兄貴ボーッとしてるとこあるから」
最後の梓の言葉にムッとしたが
今の俺はアラタだ。
そう自分に言い聞かせて
梓の言葉に耳を傾ける。
「カズの前方不注意で事故にあったならそれは単なる本人の注意力散漫が原因で事故にあったって事になるね」
我ながら自分で自分を悪く言うのは気がひけるが今はそんな事は言ってられない。
「最初は警察も兄貴の前方不注意でこの事故は片付くはずでしたが最近になって目撃者が現れたって連絡が来たんです。兄貴が誰かに押されて道路に倒れこむ所を見たって」
目撃者が現れた。
その言葉が俺の頭の中で延々とリピートされる。
「それで、警察の人はその目撃者が和也を押した人間の顔も見たと言ってたのか!?」
「お…落ち着いて下さい!新さん…気持ちは解りますけど…顔…近すぎ…です」
そう言われて俺はハッとする。
よく見たら梓の顔が凄く近いし何故か顔も赤い。
忘れていた。
アラタは顔が良いんだよな。
しかも文武両道で女の子にラブレター貰っていたのを俺は知っている。
「ゴメン、カズをそんな目に合わせた奴が解ったからつい興奮して」
そう謝って慌てて離れると
梓もコホンと一息つき
「気持ちは解ります。あの人もそうでしたから。えっと…話の続きですけど、その目撃者は小学生の男の子なんです。その子はそこが通学路みたいで兄貴と何度かすれ違ってたから兄貴の事知ってたんだそうです。兄貴を押した人の顔は残念ながら見てないそうですが服装は兄貴と同じ服装だったと言っているそうなんで同じ学校の人間が兄貴を押したのは間違いないと思います」
背中に冷たいものが流れた。
(同じ学校の…人間?)
同じ学校の人間と聞いて
脳裏に浮かんだのは何故かよく見知った顔だった。
(…違う。絶対にそれはない)
悪い方に考えては駄目だ。
そう自分に言い聞かせて頭の中からその悪い考えを必死に振り切っていた。
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