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翌朝。
目を覚ますと俺の視界には見覚えのある天井。
窓に写る自分は井上和也ではなく
森川新次であり、アラタだ。
小さく欠伸をして
伸びをすると寝ぼけ眼のまま部屋を出た。
「おはようございます」
リビングに下りると
父さんがいつもの様にコーヒーを片手に新聞を見ている
「あぁ、おはよう新次君。夕べはよく寝れたかい?」
「ええ、おかげ様で」
そんな他愛のない会話。
見慣れている光景なのに何故か不思議な感覚だ。
自分の家なのに知らない家で泊まったみたいなそんな感じ。
母さんはキッチンで朝食のオムレツと格闘中で梓は既に朝食の真っ最中だ。
「兄貴の部屋は綺麗だけがとりえですからね~」
相変わらずの梓の余計な一言。
悪かったなと心の中で梓に毒づくと
座った目の前には
ふんわりと綺麗な出来たてのオムレツが運ばれてきた。
「新次君のお口に合うと良いんだけど」
そう申し訳なさそうにいう母さんに
「いただきます」
俺は、オムレツを一口大に切って口に運ぶ。
(いつもと同じだな。)
母さんが作ってくれるあのオムレツの味だ。
「美味しいです」
「ふふっ、良かったわぁ~、ちょっとお父さん!いつまでもコーヒーばっか飲んでないでちゃんと食べて下さいな」
いつもの小言を言う母さんにすまんと謝る父さん。
それは毎日見てた見慣れていた光景。
だけどそこに俺は居ない。
居るけど居ないのだ。
今の俺は和也ではなく
アラタなのだから。
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