三河殿接待

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安土の東に大宝坊という寺がある。 家康一行の宿館である。 光秀は接待を命じられてからすぐに京や堺に人を走らせ接待の為の品々を調えさせた。 『万事ぬかりなく』 光秀は細部に渡るまで細々と指示を出し思い着く限り最高の接待で家康を持て成そうとした。 しかし今も尚、光秀の心には黒々とトグロを巻くような暗雲が立ち込めていた。 (上様あっての今日があるのじゃ…) その度に光秀は自分自身に言い聞かせる様に心の中で繰り返した。 その日、陽が高く昇った頃に家康一行が宿館に到着した。 『日向の守(ミツヒデ)殿、痛み入ります』 風の良く通る書院で上座に座った家康が慇懃に感謝の意を示す。 『金銀に糸目をつけず心尽くしにせよ』 信長はそう言ったが一貫文も出さなかった。 後は接待を命じられた光秀の裁量と財力を使い心尽くしにせねばならない。 『これでは明智の蔵が空になるのではないか』 光秀は斎藤内蔵助ら家臣が大袈裟に心配する程に惜しまず財を使った。 しかし…その数日後に光秀は接待の役目を解かれた。 偶然にしても……何と間が悪い事かと光秀に同情せずにいられない。
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