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心地よい陽ざしを浴びながら馬上で揺られていると、ついウトウトと眠気に身を任せてしまう。
琵琶湖の南岸をこの一行はゆるゆると進んで行った。
『かくも素晴らしき天気でございますな』
後ろから聞こえる弾むような声に光秀は目を覚ました。
その声の主は嬉しそぉに光秀の横に馬を並べ
『いよいよ右府様の天下は間違いございませぬなぁ』
とキラキラ輝く湖面を眺めながら言うのである。
『内蔵助(クラノスケ)。
上様は天下以上の物をお望みにあらせられる』
『はて…?天下様以上のモノなどこの世にございましょうか?』
この時はまだ…内蔵助こと斎藤利三(トシミツ)には光秀の云う意味が理解できなかった。
光秀は口許に微かな笑みを浮かべただけで内蔵助の問いには応えなかった
『今回の安土行…久々の安寧休息(アンネイキュウソク)じゃ…楽しもう。
どの道安土に着けば寝る間もないほど忙しくなるからの』
およそ戦国時代にあって信長の織田家ほど忙しい軍はないであろう…。
信長は家臣が休む事を好まなかったし、またさせなかった。
信長の元で一軍を指揮する将兵は常に多方面での軍事行動を命じられる事がざらであり、現に信長が置かれていた状況からも常に複数の強敵と対峙しなければならなかった。
『日州(ミツヒデの呼称)安土に来い。陸路でよい…ゆるゆるとで構わぬ。』
通常…光秀の居る坂本城から安土まで行くには水路で行く。
最短距離であるし最も早いからであるが、今回は信長からゆるりと安土へ参れと言われた。
尾張半国より身を興し今や畿内を中心に天下を手中に治めようとしている信長。
信長があればこそ今の光秀があるし信長も光秀の才能を高く買っているからこそ織田家の主力を任していた。
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