殺人者と泥棒

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【殺人者】 そういえば先程チャイムが鳴っていた気がする。 青木はそんな事を考えていた。 あのチャイムは恐らく、泥棒が中に誰もいない事を確認する為に鳴らしたものだろう。 チャイムに出なかった事が悔やまれる。 出ていれば何か変わっていたかもしれない。 そしてもう一つ、部屋中の電気が消えている事も、泥棒が入ってきた原因の一つだろう。 しかし、それは青木が意図して消していたのだから仕方ない。 泥棒が廊下を歩く音がする。 青木は息を殺して、ただ祈る。洗面所に泥棒が来ないように。 足音は洗面所の前を通りすぎた。 青木は胸を撫で下ろす。 どうするべきか? また青木は考える。冷静に、合理的に。 こういう時こそ落ち着かなくてはならない。 たぶん泥棒はリビングの方へ向かったはずだ。 遅かれ早かれ“あれ”に気付かれるのは間違いない。 そうなればもう……。 やるべき事は一つしかない。 青木は自分の不運を呪いながらも、この状況を打開すべく、行動を開始した。 頭の中ではもうビジョンが浮かんでいる。そのビジョンが良いか悪いかは別にして。 青木はまず服を着る。 ジャージにTシャツ。風呂に入る前に着ていたものだ。 動きやすさは申し分ない。 鉄の臭いがこびりついているが、それは問題ない。 少し湿ってもいるが、これも問題ない。 青木は足音を殺しつつ廊下に出た。 泥棒が行ったと思われるリビングのドアは閉まっている。 ゆっくりとドアに近づく。 もし“あれ”を見られていたら……。 青木の瞳が色を変える。 黒から黒へ、より深い漆黒へ。 青木はドアノブに手をかけた。
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