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【泥棒】
懐中電灯でリビング全体を照らしながら、顔を綻ばせる。
赤木は足元を懐中電灯で照らしながら、部屋の隅に置かれている箪笥に歩み寄った。
この部屋の主、確か青木と言ったか。
見るからに真面目そうな男だった。
昼間はアルバイトをしている事が多く、夜も週に3日警備の仕事をしている。
恋人はおらず、夢も特になさそうだった。
大学を出たものの就職先が決まらず、アルバイトで生計を立て始め、そのうちにその状態に落ち着いてしまった。そんなところだろうか。
典型的なフリーアルバイターと言えるだろう。
そんな人間が金を隠す時は大抵箪笥の中であると赤木は経験上知っていた。
洋服などと共に、あたかもそこにあるのが当然とでも言うかの様に隠してあるのだ。
赤木は箪笥を開けた。
予想通り、折り畳まれたTシャツに紛れて金の入った封筒が置いてあった。
赤木はその封筒から金を抜き取る。
20万といったところか。
金額まで予想通りだな。そんな事を考えつつ赤木は箪笥を閉めた。
今日も何事もなく仕事が終わる。
はずだった。
全てが予想通りにいっていたのに、赤木は最後に予想外のものを見てしまった。
“それ”に驚き、赤木は腰を抜かす。
“それ”は赤木がリビングに入ってきたドアの横にいた。
いや、あったというべきだろうか。
取り敢えず、赤木は予想外のものを見てしまった。入ってくる際には角度的に見えていなかった位置だ。
赤木は冷静さを取り戻そうとする。
確かに予想外ではあるが、今回の仕事に影響をきたすものではない。
だが、赤木は腰を抜かしたまま動けなかった。あまりにも“それ”が衝撃的過ぎたのだ。
と、その時ドアが開いた。
予想外の出来事の連続に赤木は状況が飲み込めない。
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