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【泥棒】
部屋の電気は青木自身に消させるべきではないだろうか。
赤木はスイッチに手が触れる直前にそう思った。
このまま電気を消さずに部屋から出ても、その後で青木が自分で電気を消すはずだ。
それならば赤木が電気を消す必要はない。むしろ赤木には電気を消す事よりも部屋を早く出る事の方が重要だった。
だが、その結論に赤木がたどり着いた時、赤木の手は既にスイッチを押している。
部屋が暗くなる。
眩しい。
電気を消したにも拘わらず、赤木の目に光が飛び込んできた。
床の上で光を発しているその物体が赤木が持ってきた懐中電灯である事に気付く。
青木と揉み合った際に床の上に落としたまま拾うのを忘れていた。
どうやら光はずっとつきっぱなしだったようだ。先ほどまでは部屋の電気がついていたので気付かなかったのだ。
それにしても、と赤木は思う。
それにしても、落とした懐中電灯の存在を忘れるとはよっぽど気が動転していたんだな。
「懐中電灯を忘れるところだった」
赤木はそう言って懐中電灯を拾いに行こうとした。
しかし、同時にソファに座っていた青木が立ち上がっている事に気付く。
赤木は慌てて青木にモデルガンの銃口を向ける。
青木が懐中電灯を拾おうとして立ち上がったのか、赤木に攻撃を仕掛けようとして立ち上がったのか、それとも単なる気まぐれで立ち上がったのかはわからなかった。
しかし、青木に行動を起こさせてはいけないと直感的に思った。
「動くな」
赤木は低い声で言った。
こう言えば、たとえ抵抗心を持っていようがいまいが、青木は動きを止めるはずだった。
しかし、青木は動きを止めなかった。
青木はこの部屋に入ってきた時と同じように、まるで滑空するモモンガのように赤木に飛び掛かってきた。
まさか、ハッタリがばれたのか?
赤木は混乱する。
――ハッタリは最強の武器だけど、ハッタリだとばれれば、それはあっという間に最弱の武器になっちまう
仕事仲間の声が脳裏に浮かぶ。
赤木はモデルガンを捨て、防御の体制をとる。
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