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通りを走ってきた二人組の高校生とすれ違う。
凄いスピードで駆け抜けていった彼らは、何やら深刻な表情をしていた。
彼らには彼らのストーリーがあるのだろう。
相川明宏は高校生達から視線を外し、大通りからそれた小道へ入っていく。
自分が追うべき二人組は、爽やかな高校生達ではなく、物騒な熊男と、粋がった中学生のようなサングラス男だ。
小道へ入った途端、先ほどまでの人々の熱気はなくなり、より一層寒さが増したように感じる。
光の量も減り、建物はどれも陰気な灰色の塊にしか見えない。
しばらく進むと、左手のビルと、その隣のビルの隙間から、男性の呻き声が漏れてきた。
その呻き声が事態の深刻さを物語っている。
相川明宏は急いでその隙間に入り込む。配り終えていないティッシュが山ほど入ったかごは、その場に置いていく。
体を横に向けながら進むと、広い空間に出た。
建物に四方を囲まれたその空間は、何か物騒な事をする際には最適な場所に思えた。
娘の写真を持ち歩いていた、あの男性が、目の前に倒れていた。
グレーのスーツと、その上に羽織ったベージュのコートは、アスファルトに倒れ込んだせいか、黒い汚れが目立つ。
男性の横には、熊男とサングラス男が立っている。
どう見ても、二人で男性を暴行していたとしか思えない。
「何だ? 兄ちゃん」
熊男が相川明宏の姿を見るなり、言った。
これは、まずいぞ。
相川明宏はようやく、自分がどんなに危険な事に首を突っ込んだのか理解する。
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