オータム・フォール

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「ふざけやがって。軽口をたたいていられるのも今のうちだ」 熊男が威張り散らす政治家のように言った。 「さっさとかかってこいよ」 客引きの男は余裕の表情で答える。 この漲る自信は一体何処から来ているのか。 熊男が、素早く客引きの男との距離を詰めた。 右手に握ったナイフを振る。 客引きの男は後方へ跳び、すんでの所でナイフを躱す。 地面に着地すると同時にしゃがみ込み、アスファルトに手をついた。 熊男が再び距離を詰めようと動き出す。 そこで何かが、空中を飛んだ。 その何かが、熊男の顔に命中する。 小石だ。 客引きの男が、着地の直後に、アスファルトに転がる小石を拾い、投げつけたのだ。 熊男の動きが一瞬ではあるが、止まる。 客引きの男は、既に次の攻撃体制に入っている。 右足で押し出すように、腹を目掛けて蹴りを繰り出す。 見事なまでに綺麗に、蹴りが入る。長く伸びた脚は美しくもある。 間髪を入れず、今度は右腕を伸ばし、振り子のように振る。 熊男のこめかみに拳が直撃する。 鈍い音、洩れる声、ナイフがアスファルトに落ちる音が、続けざまに聴こえる。 客引きの男は更に、左拳で熊男の鳩尾を突く。 熊男が唾を飛び散らせながら、両膝を地面につく。 前方に倒れゆく熊男の後頭部に、手刀を入れる。 今までの攻撃の中で、一番鈍い音がなる。 恐らく、サングラス男を気絶させたのと同じ攻撃だろう。 熊男の体が、無抵抗にアスファルトに沈んだ。 「よし、ショータイム終了だ」 人間が熊を倒した。 それも、ナイフを持った熊を。
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