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確かに彼の言う通り、どちらを選ぶかは男性の自由だ。
それに、と相川明宏は考える。
それに、男性がどちらを選ぼうと、結局はそんなに変わらないのかもしれない。
そう、オータムフォールだ。
「写真、見せてくれます?」
男性が客引きの男に尋ねる。
「おっさんノリがいいねえ。ほら」
相川明宏は既に歩き出している。
ビルとビルの狭い隙間に、体を横にして入り込む。
隙間を通過した所で、「あっ」と男性の驚く声が聞こえる。
ティッシュの入ったかごを拾い、後ろを振り返らずに大通りへと歩を進める。
立ち並ぶ灰色の陰気な建物達は大通りに近付くにつれ、明るくライトアップされた建物へと変わっていく。
大通りの人々の熱気が近付いてきた。
「私の娘じゃないか!」
ほとんど悲鳴のような声が路地裏から微かに届く。
相川明宏は大河のような人々の流れに踏み込んでいく。
夜の街が様々な光を発し、通りを歩く人々は皆、厚手の上着を羽織っている。
吐く息が白くなり、手が悴んで、指先を動かすのが困難になるほどの深い冬が街を包み込んでいる。
自分はオータムなのか、それともフォールなのか。
そんなちっぽけな事をくよくよと思い悩む、秋の姿は何処にもない。
Fin.
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