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「そもそも、お前が泥棒に入ってくるからいけないんだ」
「泥棒が泥棒に入って何が悪い」
二人はまだ言い争っている。
モニュメントに近づくにつれ、二人の姿が大きくなる。
全身黒ずくめの、ライオンのような髪型をした男と、ジャージにTシャツを着た眼光の鋭い男が、モニュメントを背に唾を飛ばしている。
炎と水が互いに反発しあうような、そんな印象を感じさせる。
「すいません」
言葉の切れ目を狙い、声をかけた。
二人が口論を止め、こちらを向く。
「お、もう一人いた」
髪を逆立てた方が口を開いた。
「もう一人?」
予期しない言葉だったので、聞き返す。
「あんたで4人目だよ。この訳のわかんねえ空間でさ迷っている人間は」
4人という数に相川明宏は首を傾げる。この場にいるのは3人だ。
「あっちにもう一人いるんだ」
眼光の鋭い方が付け足す。
指差された方向を振り向くと、男性がいた。
アナログ式の(例にもれず巨大な)腕時計のベルト部分に腰をかけ、こちらを見ている。
先ほど腕時計に目をやった時にも、同じ様に座っていたのだろうか。だとすれば、見落としていた。
膝の上に肘をつき、手の上に顎を乗せながら座っている男性は、自分達3人を見ていると言うよりは、その後ろにそびえ立つモニュメントを眺めているようだ。
あの不可能立体はどういう構造なのだろうか。そんな事を考えている風でもある。
「まぁ、取り敢えず自己紹介だ」
髪を逆立てた方が手を鳴らしながら、快活に言った。
「俺は赤木って言うんだ。よろしく」
「青木だ」
眼光の鋭い方が冷めた声で続ける。
赤木と青木。その名前に内心で手を叩く。
まさに炎と水じゃないか。
「相川明宏といいます。」
「おっ」
赤木がまた手を叩いた。
「全員頭文字がAだな。縁起がいい」
赤木の顔が幸せそうに笑う。
何が縁起がいいのかはわからないが、相川明宏も釣られて笑う。
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