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「あの、ここは一体何処なんですか?」
全ての疑問の原点とも言うべきその疑問を、二人にぶつける。
どんな答えが返ってくるのかは、だいたい予想がつく。
「それがわかったら苦労しねえよ」
赤木が答えた。予想通りだ。
「恐らく、ここはあの世だ」
青木が独り言のように呟く。まるで、自分が死んだかのような言い方だ。
「だから、あの世じゃねえって。あんたは確かに死んだけど、俺はまだ死んでねえ。それに相川もまだ死んでないだろ?」
赤木の質問が自分に向けられたものだと気付くのに少し時間がかかった。
二人の会話が意味不明すぎて置いていかれそうだ。
「あ、はい。僕は生きてますよ。それに、青木さんだって今こうして生きてるじゃないですか」
「いや、俺はもう死んでいる。赤木に殺されたんだ」
“死んでいる”とはレトリックなのだろうか? それとも単にからかわれているだけなのか?
これは夢なのか? 現実なのか?
様々な疑問が脳裏をよぎる。
右足で左足を踏んでみる。痛い。夢ではないらしい。
「殺したのは悪かったけどよ、あんたも俺を殺そうとしただろ」
二人がまた口論を始める。
泥棒、首を締める、ナイフで刺す、死ぬ、そしてまた泥棒。
物騒な言葉のループが繰り広げられる。
「1人増えたみたいですね」
落ち着いた、静謐な声が後ろから聞こえた。
振り返ると、先ほど腕時計のベルト部分に座っていた男性がいた。
口論を続ける二人とは違い、自らの置かれた状況を達観する余裕が窺える。
「あ、初めまして。相川明宏といいます」
まずは自己紹介だ、と赤木が言っていたのを思い出し、名乗る。
「初めまして。――です」
「え?」
名前が上手く聞き取れなかった。それにしても短すぎないか?
「“A”と言います。やっぱり変ですか? 赤木さんにも言われたんですけど」
冗談を言っているようには見えない。
「Aさんですか。いいえ、変じゃないと思いますよ」
変すぎるだろう。
右足で左足を踏む。痛い。
夢ではないらしい。
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