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「青木さんも私も、確かに死んでいるんです。そういう記憶があるんです」
Aが再び話し出す。
「私の場合はZという人間に殺された訳ですが、それは紛れもない真実です。ですが、生きている人間と死んでいる人間とが同じ場所に存在しているというのは、やはり妙です」
Aの周りの人物は全て記号のような名前なのだろうか。それこそ妙ではないか。
頭に浮かぶ疑問は口には出さず、先を聞く。
「しかし、ある仮説の中ではこの空間は妙ではなくなります」
「その仮説を早く教えてくれよ」
赤木が少し苛立った声で言う。
青木はその鋭い目でAを見つめている。
「この空間は“空想”なんじゃないでしょうか?」
「空想……」
誰かが吐息とも似た声をもらす。
「いや、私達自身も空想なのかもしれません。あるいは物語というべきか」
「ちょっと待てよ。話がおかしな方向へ進んでないか?」
苦笑いを顔に浮かべ、赤木が言う。
「私達はきっと別々の世界の人間なんですよ。赤木だとか、Aだとか、名前も全然違いますし。死んだはずの青木さんや私が存在しているのも空想、もしくは物語の中だからなんでしょう」
Aは言い終えると、モニュメントを指差した。
「あれだって現実じゃあり得ない立体です。あれこそが、まさにこの空間が空想である事を示しているんですよ」
A以外の3人が後ろを振り返る。
何も言わず、堂々と、モニュメントはそこにある。
中心辺りを貫く柱は、やはり三次元では表現出来そうにない。
「空想というよりは物語に近いかもしれませんね。私達はここに来る前、それぞれのストーリーを歩んでいたはずです。ここはそのストーリーが交わる場所なのかもしれません」
Aが静かに言う。
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