736人が本棚に入れています
本棚に追加
赤木がAに視線を戻しながら「仮に」と弱々しく言った。
「仮にこの空間が空想で、俺達が別々の世界の人間だとしたら、俺達はどうしてここに集められたんだ?」
Aがモニュメントを見ながら少しの間沈黙し、答える。
「それは多分、この空想の創造主にしかわかりません。何か目的があるのかもしれませんし、単なる気まぐれかもしれません」
その場に再び沈黙が訪れる。
「Aさんはさっき、この空想は物語だと言ってましたけど、どうしてそう思うんですか?」
沈黙を破ったのは相川明宏だった。
「それは、私の元いた世界が単なる独りよがりな空想というよりは、受け取り手がいる空想、つまり物語に思えたからです」
「受け取り手、ですか」
「えぇ、小説の読者のような受け取り手です。その受け取り手に対するメッセージが込められていると感じたんです」
受け取り手に対するメッセージ。そんなものが自分の世界にはあっただろうか。
相川明宏は自問自答する。
あったとすれば、“オータムフォール”だろう。それ以外考えられない。
という事はやはり、自分のいた世界も物語だったのだろうか。
「もしAの言うように、この空想が物語なら、俺達は恐らく物語の主人公だ」
青木が誰に言うでもなく呟いた。
「そうですね。それぞれの物語の主人公がここに集められた。そんな感じでしょう」
Aが答えた。
「それぞれの物語か。まるで短編集だな」
青木がまた呟く。
最初のコメントを投稿しよう!