7712人が本棚に入れています
本棚に追加
あのあやめ先輩が、文字通り子供扱いだ。
それに、あやめ先輩の意外な弱点が分かってしまった。いや、弱点と言うのは違うかも知れない。
あやめ先輩の強さの一端を担っている相手の技を瞬時に覚えて使う事が出来る才能……『模倣の極み』が上穂相手には意味が無かった。
その理由は、上穂は特別な技を一切使わないからだった。
正拳突き、回し蹴り、払い受け……全て、基本中の基本の技しか使っていない。あやめ先輩達を馬鹿にして、手を抜いているという感じでは無い。上穂重慶は、基本の技を極めた達人なのだろう。
僕がようやく目で追える程の速さで迫るひかりのパンチを左腕で受け、同時にカウンターの突きをひかりの鳩尾に放った。
そして、ひかりが膝を付いて倒れる前に、臨戦体勢だった川原先輩を上穂は蹴り飛ばしていた。
あの三人が、手も足も出なかった。
「……さて、後はお前だけか」
上穂は特に脅す様な声色ではなく、早朝のゴミ出しの様な気安さで僕に向かって歩き出してきた。
……ヤバイ……僕じゃあ、何の抵抗も出来ない……。
死刑宣告の様な上穂の歩みが、不意に止まった。
「ホウ、面白い体質だな」
そう言いながら上穂が向いた先には、しっかりとした足取りで立ち上がるあやめ先輩がいた。
最初のコメントを投稿しよう!