序 章 疾風迅雷/マ王降臨

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 ある者は携帯片手に通話中。  ある者はコンビニ前で仲間とたむろし。  ある者は店の前でチラシを配りつつ呼び込み中か。  夜も深まる時間帯だが終息の兆しは、無い。  そんな街中―― 「――――あ、あれ!」  突如として響き渡る焦燥に満ちた女の声が、真夜中の喧騒をぶち抜いた。  その隣に居た華やかなドレス姿の女は、虚空に向けて指を差す女につられて空を見上げる。  近くを横切ったサラリーマン風の男は、車輪付きのスーツケースを両手で引きながら顔を上げ。  二人で話しながら歩いていた制服姿の女子高生は、立ち止まって空に視線を向けた。  『空を見る』もしくは『視線を上げる』という挙動が瞬く間に伝染していく――  スクランブル交差点の奔流が停止。  信号は切り替わりの予兆を点滅で知らせる。  夜道を照らすべき星の光は、人工灯で塗り潰されていて視覚できない。  しかし、人々の目はハッキリとそれを捉えていた。  夜空を狭める高層ビルの輪郭を。  その真後ろで煌々と輝く満月に映った――  ――夜空を駆るバイクと操縦者の黒いシルエットを。  
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