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「あれー?もう行っちゃうのー?
僕、もっとお話したいのにー」
二度言う。
どの口が言うのかしら。
私は紀一の鼻に手を伸ばし、ぎゅーっと強く摘んでやる。体を強ばらせて手をバタつかせる、ざまぁみろ。
手を離してやると鼻を真っ赤にして涙目になっている。思わず笑いが零れてしまう。
「アンタに構ってる暇は無いの。
じゃあね、《佐渡クン》?」
手をヒラヒラと振ると踵を返し理事室へ向かう。内心ガッツポーズ。
ふざけた態度を取った紀一が悪い、そう思う。紀一がどんな顔をしていたのかが解らないが、きっと悔しがっているに違いない。
そんな事を考えていると可笑しくて笑いそうになってしまう。
渡り廊下、似たような窓と扉を眺めながらゆっくりと歩く。
多少遅くなったって兄はなんだかんだで許してくれる。それに甘えてる訳じゃないけど、困らせるのも楽しくて止められない。
約20年近くも一緒に居るんだから兄妹の関係がそんな下らない事で崩れる訳もない。堂々とゆっくりして行けるのだ。
兄は気付いているのか気付いて居ないのか解らないが、それでも年の離れた私を可愛がってくれている。
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