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見慣れた新撰組の屯所。
春の暖かな日差しの照りつける廊下。
その端に座り、一人の青年が庭を眺めて居た。
彼の表情は変わらず、無表情だった。
だが、漆黒の瞳はいつもの哀しげなものではなく、優しげな瞳だった。
彼の視線の先を見ると、ころころとした仔猫が二匹じゃれ合っていた。
三毛猫と虎しまの猫。
可愛らしい声で鳴きながら、絡み合っている姿は無感動な自分の目から見ても愛らしい。
「---座ったらどうだ?」
自分の存在に気が付いたのか、黒冬はこちらを見ながら誘ってきた。
特に断る理由もなく、自分は彼の隣に座った。
彼の目はもう自分のほうへ向けられてはいない。
ただ、庭に居る仔猫を見つめていた。
それが少し、胸に引っ掛かるように残る。
「---猫が好きなのか?」
無意識にそんな言葉が口から出た。
そのことに、自身が一番驚いていた。
「好き…か。」
「違うのか?」
「ううん、どうなのだろう?---見ていて飽きない、と言う言葉が合う気がする。」
「---好きだからではないのか?」
「好きと言う感情が良く分からないんだ。---嫌われることや疎まれることなら良く分かる。」
「---そうか。」
自分はそれ以上、踏み込んで聞けない。
彼の傍は何故か居心地が良くて、自らも饒舌になっている気がする。
だが、聞いてほしくない、触れてほしくないことは弁えているつもりだ。
然し、新撰組の為ならばどれ程、自分は冷酷になれる。
彼が傷つこうと、構わずに追求する。
それが自分だ。
「---斎藤。お前には好きなものはあるか?」
「何だ?いきなり…。」
「いきなりではないだろう?俺に問うてきたのはお前だ。」
「---。」
黒冬は視線を仔猫から自分に向けていた。
自分は綺麗なその瞳に、見入ってしまう。
惹き付けられる---それを自分は恐ろしいと感じていない。
彼は人間ではなく、神だからなのか。
自分には理由を見つけることが、出来なかった。
終.
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