稽古にて

2/5
前へ
/36ページ
次へ
 今日は久しぶりに、楽しい稽古が出来そうだ。  それは道場に彼の姿を見つけたから。 「一、僕と稽古しない?」 「---お前と?」 「そう、僕と。」  平隊士に稽古を付けるのにも飽きた頃。  僕は一に声を掛けた。  予想通り、一は眉間に皺を寄せ、真面目な表情で考えている。  それを見るのが楽しいんだよね、僕は。 「お前、隊士たちの稽古は終わったのか?」 「勿論。---動ける人、居ないんだよねぇ。」 「-----やり過ぎだ。」 「あはは!---でも、加減したんだよ?僕なりにね。」 「お前の加減は加減したことにはならない。」 「ひっどいなぁ、一は。」  真面目な彼は真面目な答えを返す。  長い付き合いだから、大体の考えも予想がつく。  彼だって、こんな稽古が退屈でない訳がない。 「最近、捕り物が少ないから運動不足なんだよね。」  僕が木刀を構えると、彼も手にしていた木刀を構える。  彼の目は既にやる気十分。  本当、素直じゃないんだから。 「---始めようか、一。」  僕はにっこりと笑っていた。 .
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加