#01 紺碧の糸

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 涼子は携帯の時計を見ると、時刻は15時を過ぎていた。携帯には奈々からのメールが一通、帰宅時のお詫びの文が入っていた。 「奈々か……。普通に帰ってたら今日、楓に出会わなかったし、転生前のオリヴィアの記憶も得られずに鳳涼子として平凡に暮らしていたかもね」 「……ごめんなさい」 「謝る必要なんてないよ。私は私である為に戦う。オリヴィアの意志も全部背負ってこそ私として生きていける気がするから」 「涼子先輩……」  強制はしていなくとも、自分が涼子から平凡な日常を奪ってしまった罪悪感が楓にはあった。そんな不安を涼子は吹き飛ばすくらいの揺るがない意志と、言葉の力を持っていた。 「そんな顔されると、私が不安になるでしょうが……」  楓の前に座り、白銀の髪に触れる。涼子と対称的な楓。細い身体に運命は容赦なく重い定めを与えた。昔の柵に捕らわれ、たった1人孤独に戦い続けてきた。自分の知らない場所で過酷な戦いを。 「私はオリヴィアみたいに強くない。命を賭けるのは怖い……。けど、簡単に逃げる事はしないし、最後まで諦めないよ」 「涼子先輩の言葉、凄い安心できます。今までの事が嘘みたいに辛くない」 「それは良かった」  楓は信頼出来る存在を得た事で、気分が楽になった。遊びではない命の駆け引き。楓は思わず涼子に飛び付き、今まで我慢し、留めてきたものが涙として零れた。涼子は驚きながらも、楓の気持ちを察して背中を優しく叩いて落ち着かせた。  
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