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――――どうしてだ?
一魔の心の中には、そんな言葉が静まり返った湖面に零れた雫のように波紋を広げていく。
どうして、どうしてどうして、どうしてどうしてどうして?
どうして、今ここでこんなことをしでかす?
もう少しで、もう少しで――――
「随分と」
「――――っ!」
静かに、そっと舞い降りる粉雪のような声に、思考はブツリと断線させられた。
何か、とても意味のあることを考えていたような気がしたが、それよりも、考え事をしていたとはいえ、背後を自分が許してしまったという失態が、恥が、一魔の心を埋め尽くしていた。
振り返らずに問いかける。
それは恥を甘んじて受け入れるために他ならなかった。
「……誰だ?」
「貴方の敵、と言えば分かりますか?」
「いいや。それで分かったらわざわざ訊きなんかしないさ」
背後から苛立つ気配がした。
いや、苛立ちを隠しきれなくなったのか。
この背後の“誰か”は、とても、とてつもなく、一魔へと怒りを持っている。
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