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◇
「なんだ、これは?」
低くかれた声はサイレンにかき消された。
それほど目の前の光景は信じがたい。
これほど閑静な住宅地に、政府の要人宅でもなんでもない一般人の家に、
「クレーターって、こういうのを言うんですかね?」
「……さあな、俺は本物を見たことが無いから知らん」
同じ感想を、隣に立っていた新人刑事も思ったらしい。
驚きに目を剥いて身体を小さく震わせていた。
若かろうが、年老いていようが、これを見て思うことは同じなのだろう。
そう、目の前にはクレーターが広がっている。
ぽっかりと、何かに削れ取られてしまったかのように。
そこにあったものが無くなってしまって、むき出しの地面が露になってしまっていた。
幼い頃、目を輝かせアポロが月へと着陸するところを見たものだが、あの時ブラウン管の向こうにあったものを目の前で見るとなんと恐ろしいものか。
容赦なく、跡形も無く、破壊がそこで行われたのだと実感させられるのだから。
「浅田さん、本当にここには民家があったんですか?」
「ああ、護身術道場を構えていた古西さんの家だ。民家だけでなく道場もあったらしいが……」
見渡して、どちらもが跡形も無く消し飛んでしまっていることを再確認する。
もちろん、そこに住んでいた家主も、夫人も、二人いるという子息も、誰もいない。
どこかへ出かけているという可能性も否定は出来ないが、近所の人の話によれば、少なくとも夫妻は家に居たはずだという。
だとすれば、二人は痕跡すら何も残さずこの世を後にしてしまった、させられてしまったのだろう。
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