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「これは、内閣府のマークか?」
「その通りです。対テロ国家機関は内閣直属の機関でして」
「つまり俺たち普通の公務員なんかより随分と偉いって言いたいのか?」
「その通りです」
男は悪びれることも遠慮することもせず頷いた。
堂々と、当然だと頷いた。
観絶村は浅田を避けて歩を進める。
やがて足はクレーターの縁で止まった。
「……壮観、と言ってしまってよいのでしょうね。この景色は」
「どこがだ、お偉いさん。民家が一軒消し飛んじまってんのに、それを良い景色なんて」
「いえ、壮観ですよ浅田警部」
視線を動かさず、観絶村の指が右方へと向く。
「見てください。この大円の外側を」
クレーターの縁右側へと二人の刑事の目が動く。
家の端に植えられた木が抉れ、塀にもヒビが入っている。
と、今度は左へと指が動く。
家か道場か、どちらかがそこにあったらしく僅かに残った柱がそこに立っていた。
その向こうに覆われることなく見える塀がどこか悲しい。
最後に、指が正面へと。
そこには――――何もない。
何もなかった。
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