失踪

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「……な、何を」 「弱い者、とあなたを蔑む気はありません。ですが、人はそれぞれ住むことの出来る世界がある。領分というものがあるのです。この事件は境界だ」 つまりは、観絶村が手に持ったそれが描いた軌跡が。 その世界を分ける境界線だと言っているのだ。 「あなたはそれを超えることが出来なかった。線の向こう側にいるのです」 「だから、尻尾を巻いて逃げ出せってことか?」 「あなたが命を大事にされるのであれば」 神妙に男は頷いた。 俯いた顔から真剣な眼差しが送られてくる。 瞳に嘘の色は見えない。 「…………」 長い沈黙が浅田から流れる。 それはつまり、彼の迷いの長さでもあった。 浅田は彼を信用した。 その上で、自分がどうすべきか悩んでいるのだ。 正義の為に動くのか。 保身の為に退くのかを。 「浅田さんっ」 「うん?」 新人刑事は熱のこもった視線で浅田を見ていた。 若さゆえの情熱が痛いほどに伝わってくる。
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