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「ハァッ! ハァッ! ハァッ……!」
柘榴は走っていた。
なぜ自分が走らねばならないのか。なぜ自分が、人々に追い立てられねばならないのか。
それは鬼灯を愛したからだということは、分かっている。
ではなぜ、人を愛することが禁忌であるのか。頭では分かっていても、心の奥底では納得出来なかった。
不意に着物の裾が足に絡まり、柘榴はその手を地についた。
立ち上がろうにも、全身が虚脱感に襲われ息をすることもままならない。
鬼灯の待つ、山の頂はもうすぐそこだというのに──。
遠い彼方に、微かな街の灯りが見えた。どれだけの距離を走り続けたのか見当もつかない。
柘榴は冷たい木の幹に体を預けると、帯に差した手鏡を取り出した。
木々に閉ざされた森の中では月明かりすら届かず、鏡面には暗闇が映るばかり。
柘榴は指で鏡をなぞった。切れ切れの息で、ぼんやりと呟く。
「……鈴木……。わたくしは、どうなるのかしら……」
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