序章

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その時僅かに感じた違和感。鬼灯の目が怪しく光ったことに、柘榴は気付かない振りをした。思い起こせば数多ある、鬼灯の不信な言動。 それでも。 「愛してる」の言葉に縋りつき、沸き上がる猜疑心に蓋をして、彼女は祈ってきたのだ。 ──どうか、このままの幸せを。 そして、現実を叩きつけられる。 柘榴は鬼灯の言葉に思いを馳せながら、ザクロの木へと歩み寄った。 「……鬼灯さん?」 あの言葉を純然たる愛だと信じて。現実から目を背けて、呼びかけ続ける。 「鬼灯さん? 柘榴です。遅れて、すみません。」 誰もいない暗闇に向かって、呼びかけ続ける。 「鬼灯さん、柘榴です。いらっしゃるのでしょう? ……鬼灯さん、お返事をして下さい。…………お約束したじゃないですか! 何かあったら此処で、と!!」 「いたぞ!!」 ひときわ大きくなった怒号の響きが、無数の足音と共に柘榴を取り囲んだ。
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