序章

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綾楼国の民にとって、生殖というものはそれらの醜い動物がするものであった。 ならば人間は、何によって生態系を維持しているのか。 唐松が苦々しく唇を噛んで言った。 「それでも生まれてきたお前には罪はないと生かし、アトマタスさえ行えば認めようと思っていたのに……」 アトマタス。 それは彼らの生殖方法である。いや、厳密にいえば生殖ではない。社会を構築するために悟った、至高の幻術だ。 綾楼国の民全員が持つ、各々の魔力が込められた魔鏡。 幻術によって作り出した空の幼い肉体に、魔鏡に映した自らの中に息づくアトマを取り出して移すという術であり、アトマとは、彼らの魂のようなものだ。 それはいわば不老不死ともとれるが、新たな肉体の精製後にはすべての記憶、またそれによって培われた人格がリセットされるため、彼らにそのような認識はない。 綾楼国の民にとって、新しい命の誕生はこうしてアトマタスによって行われるものであり、交尾によって生まれた柘榴は、“禁忌”そのものだった。 そして禁忌は、愛という禁忌を更に犯し、遂には人々に狩り立てられる。
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