序章

20/25
前へ
/69ページ
次へ
柏は腕を引き抜く。 そのしわがれた拳には輝く珠(たま)が握られていた。 アトマだ。 それと同時に柏の体は砂のように崩れ去り、消えた。 彼の着ていた着物がぱさりと音を立てて、冷えた土の上にかぶさる。 輝くアトマはゆっくりと、空の器、柏の作り出した幼子の体に吸い込まれ、その光を収束させた。幼子は目を閉じたまま、眠っているかのように地面に横たわる。 「さすが柏様だ。あのようなアトマの輝きは、見たこともない」 「ああ。この子も立派な子になるように、大事に御守りせねば。……この世界の大切な後継者だからな」 山吹と唐松は口を揃えて、新たな命の誕生を祝った。 だがそのような厳かな空気を噛みしめているのはその二人だけで、あとの群衆はただ目の前の異物を、──柘榴を睨みつけている。 鬼灯に至っては面白いものを見た、というようにニヤニヤと軽薄な笑みを浮かべていた。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加