序章

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柘榴は目の前で消えた柏と、新たに生まれた幼子に思いを馳せて、考える。 綾楼の民として正しいのは、群衆や鬼灯の方だ。快楽と利益を追求する彼らにアトマタスを祝う風習はなかったし、それによる前身の消滅を悼むこともない。 それは最早、人間としての尊厳をなくしているかのようだ。 だが。 生殖が封じられたこの世界で。 そもそも“男と女”という区分はあってないようなこの世界で。 “生と死”という区分すらないこの世界で。 なぜ人は生きていくのか。 目先の享楽に身を尽くし、生そのものに目的も持たない。他人と心を通わすこともない。結婚や家族という概念もない。 そんな世界で柏と紅梅は唯一、人間の在り方を説いた人物だった。 でもその柏さえ、アトマタスを厭わずに消えてゆく。 ──何故? 柘榴は考える。 ──わたくしは、母さまの腹から生まれた。 母さまの股を食い破って、誰のアトマも受け継がずに、たった独りの子供として生まれてきた。
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